第21回シンポジウム:アピール文
【2017年3月14日 第21回シンポジウムにて発表】
安倍内閣は南スーダンPKOからの自衛隊の撤退を決めた。この決定をわたしたちは歓迎する。しかし、撤退の理由が、「南スーダンでの活動が今年1月に5年を迎え、部隊の派遣としては過去最長となり、一定の区切りをつけられると判断した」とされていることには、根本的な疑問がある。南スーダンの状況は、現地部隊の「日報」に示されているとおり、実質的には、昨年7月の段階で「戦闘」状況にあった。その状況がさらに悪化しているのであり、自衛隊が戦闘に巻き込まれてしまう危険性あるから撤退するのだ、と率直に誤りを認めるべきであろう。
それにしても、安倍政権は、南スーダンがそのような危険な状況にあったことを知りながら、昨年、11月15日に派遣部隊に「駆けつけ警護」および「宿営地の共同防護」の任務を与えた。「日報」の存在が明らかにされなければ、そして国民からの強い批判がなければ、自衛隊員は、そのまま生命の危険のある任務に従事させられていたであろう。わたしたちは、国民の生命を大事にしようとしない政権の下にいるという事実に、改めて愕然せざるをえない。
「日報」の存在は、ジャーナリストの布施祐仁氏が情報公開法を使って明らかにした。まさに、市民が適切な情報を知り、それを使って権力者を批判していくことによって、権力が国民の利益に沿うように使用されるようになるという、立憲民主主義のプロセスが機能したのである。憲法21条の表現の自由と憲法9条の平和主義が、南スーダンでの非情な任務から自衛隊員を解放したのである。
防衛省が2015年から募集をはじめた「安全保障技術研究推進制度」に対して、日本学術会議は、批判的な声明案を発表すると報じられている。信州大学も、当該制度への研究者の応募を当面見合わせるとの決定をおこなった。これも、憲法をないがしろにし、研究者を軍事研究に誘導しようとする政権の意向に対して、研究者が憲法23条の学問の自由(自律的な学問活動)と憲法9条によって、批判的に対峙した事例である。
このように、新安保法制を強行し、憲法を実質的に変えていこうとする政権に対して、憲法を武器に市民や専門家が対峙しようとする動きがみられる。この動きを、さらに展開していかなければならない。
さて、目下の問題は共謀罪である。共謀罪は、市民の自由な表現活動に権力の介入を許すことによって、自衛隊を南スーダンから撤退させることにつながったような立憲民主主義のプロセスを破壊する危険がある。憲法が機能する社会を維持するために、わたしたちは、共謀罪の国会提出に対して、改めて反対の意を表する。
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