第32回シンポジウム:アピール文
【2018年2月13日 第32回シンポジウムにて発表】
安倍首相は、1月30日の衆議院予算委員会において、9条3項で自衛隊を明記しても、9条2項を残すことによって、新安保法制に導入された新三要件による制限が憲法上導かれるとの認識を示したという。2012年の自民党改正草案の2項を削除するという案は、「フルスペックの集団的自衛」を認めることになるのであり、自分の案はそれよりも限定的だというのである。
これは、驚くべき答弁である。2014年7月1日の閣議決定による解釈変更までは、憲法9条は個別的自衛権しか許容していないというのが、60年間にわたって維持されてきた政府の憲法解釈であった。3項追加にもかかわらず、2項を維持することよって、「限定的な集団的自衛権」しか認められないという答弁は、逆にいうならば、3項を追加することによって、「限定的な集団的自衛権」が憲法上明確に認められるということにほかならない。これで、憲法9条に自衛隊を明記する案は、2015年に成立した新安保法制の違憲性を隠蔽するための改憲案であることが明らかとなったといえよう。
したがって、自衛隊を憲法に明記することが、現状と何もかわらないといういい方は不正確である。正確には、自衛隊の憲法への明記は、新安保法制によって集団的自衛権が容認された現状を肯定することだというべきであろう。ここでは、「現状」そのものが新安保法制によって変えられていることが曖昧にされているのである。
しかし、たとえ「限定的」であっても、集団的自衛権を行使するということは、他国と戦争をおこなうことである。したがって、「限定的」であろうとなかろうと、集団的自衛権の行使容認によって、日本国民を甚大な危険にさらすことになる。
警戒するべきは、国会やメディアにおいて、安倍首相の答弁が、特に問題とされずに通用してしまっているということである。真の問題は、2014年の安倍政権による閣議決定および2015年の新安保法制の制定が、現行9条に違反しないかどうかである。その問題を解決しないまま、なし崩し的に憲法改正へと向かっていることの異常性を、改めて指摘しなければならない。
本日のシンポのテーマは「アベノミクス」である。この経済政策こそは、安倍政権が国民に対してその政権担当能力をアピールしてきたものである。安倍政権が、これまでの政権と異なるのは、政策による国民へのアピールによって政権への支持を確保しながら、憲法改正という本来の目的を果そうとするところにある。しかし、憲法改正に国民投票が要求されることからも明らかなように、経済政策と憲法とは別の次元のものである。わたしたちは、安倍政権の政策についても一つ一つ検討をおこない、それと、憲法改正問題とを切り分けていかなければならないと考える。そういう試みを今後も続けていきたい。

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