第34回シンポジウム:アピール文
【2018年4月10日 第34回シンポジウム発表】
私たちは,この1ヶ月間における情勢の変化が,新安保法制の撤回を求めつつ現在の状況を学問的かつ多角的に分析・討論してきた私たちのシンポジウムで議論すべき多くの問題を提起していると考えます。
平昌(ピョンチャン)オリンピックを一つの画期として急速に変化しつつあるかに見える朝鮮半島状勢は,アメリカ,そして中国の動向とも連動しつつ東アジアの国際関係を大きく動かしつつあります。依然として予断は許されず,かつ行く末は不透明のままですが,東アジアにおける「安全保障上」の「危機」の存在と,そのことをどう考えたらよいのか,という問題に関心を集中させてきた私たちのシンポジウムも問題の立て直しを迫られるでしょう。それは,新安保法制成立の2015年以降の時期のみならず,どのような歴史的視野でものごとを考えるか,ということでもあります。
しかし,こうした国際的情勢のなかで私たちの政府はどのような平和の道筋をも提起,発信することができませんでした。それは,市民社会レベルにおいてもほとんど議論を作ることができなかった市民の弱さとも言えるでしょう。だからこそ,私たちがこれまで考えてきたことの遺産,未来への構想を再確認すべき時でしょうか。
他方,市民による創造的な議論・平和構想を造っていく基盤そのものが崩壊しつつあることもこの国の社会の深刻さを表現しています。すでに特定秘密保護法を持つこの国で新安保法制成立以後に進んだ事態は,共謀罪の成立であり,突然ともみえる放送法改正の提起であり,教育現場への「不当な権力」の行使でありました。
さらに,これまでのさまざまな議論,新安保法制成立の正当性をも揺るがしてしまった公文書改ざん・隠蔽問題の重大化があります。
本日のシンポジウムでも明らかな通り,戦争とは国家同士の総力戦にとどまらず,むしろ「治安維持」・対ゲリラ・対テロなど民衆に対する日常生活との切れ目のない暴力行使でもあります。
こうした戦争のあり方は,現場の記録に即して,また武力行使を「された側」の視点をも加味して考えられなければならないでしょう。そうした私たちの思考の基礎となる情報が、改ざん・隠蔽されていたわけです。私たちは,2015年以後,何に基づいて,どんな選択をしてきたのでしょうか?
自衛隊を明記する方向での憲法改正の動きも予断を許しません。オスプレイの横田基地配備の前倒しという事態は,東アジア情勢の変化の中で日本がどのような役割を担いつつあるか,私たちに鋭く問うています。
新安保法制の撤回は容易な仕事ではないでしょう。しかし,情報の改ざんや隠蔽を許さない市民感覚は確実に広がり,平和の基礎となる国境を越えた市民交流,地域のなかで多様な出自を持つ人びとの対話は確実に進みつつあります。これまでの沖縄をはじめとするしなやかで粘り強い運動にも学びつつ,私たちの平和構想,思想そのものを鍛えていく必要があります。
東アジアの新情勢をうけて,私たちもより一層問題を深めていくことを決意し、アピールとします。

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