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第36回シンポジウム:アピール文

【2018年6月12日 第36回シンポジウムにて発表】


主要農産物種子法(以下、種子法)は戦後、日本が食糧難に瀕している時代に国民の食生活を維持することを目的に制定された法律である。当時とは異なり、現代はスーパーやコンビニで手軽に食品を購入できる時代であるが、日本の食料自給率はカロリーベースで40%を下回っており、種子法廃止による食料自給率のさらなる低下が懸念されている。

種子法の廃止によって主要農産物の品種改良への企業の参入が加速化することや種の価格が今の5倍から10倍にもなってしまうことが懸念され、日本の農業従事者のみならず、私たちの食生活にも何らかの影響が及ぶ危険性がある。たとえば、家族農業が衰退し、公的機関の種子が使われなくなり、企業による大規模農業が大きな割合を占めていくと、種子供給の不安定化、ひいては作物供給の不安定化が引き起こされるのではないだろうか。食料生産が完全に民間企業の管理下に置かれると、利益や経営が優先されるため、採算が取れないことには資金を出さなくなる結果、事業から急に撤退することも、生産停止することもありうるからである。市場に左右される民間企業の大規模農業は、日本国民に対して、食料の安定供給を保証してはくれない。


この問題に関連して、遺伝子組み換え作物の問題がある。遺伝子組み換え作物は人の健康への悪影響が懸念されており、安全が保証されていない。人の健康へのリスクの評価は組み換え技術に関して利害関係を有しない科学者に委ねられるべきではあるが、海外では、遺伝子組み換え作物の表示義務を強くしたり、販売を禁止したりするなど規制を厳しくする運動が起こっている。一方、日本においては、生産は禁止されているものの、輸入の規制はゆるいため、海外で売れない遺伝子組み換え作物の引き受け役を担っているという指摘がある。特に、日本では、表示義務が厳しくないため、私たちの食べるものの多くに、海外で生産された遺伝子組み換え作物が紛れ込んでいる可能性がある。安全性が保証されていない食品を、選択できないままに食べていると考えると恐ろしさを感じる。


種子法が廃止されたからといってすぐに遺伝子組み換えの作物が市場に出回るわけではない。しかし、種子法廃止の結果、食物を外国企業に頼るようになると、その危険性が増すだろう。そもそも、種子法という法律があったこと、またそれを廃止する法律が成立したことについて、本日報告を担当した私たち学生もほとんど知らなかった。その原因は、種子法廃止法案についての審議が衆参両院でわずか5時間しかなされなかったこと、またそのことがほとんど報道されていなかったことにもあると考える。国民の食という生活基盤に関わるこれほど重要な案件にもかかわらず、わずかな審議時間だけで、しかも世間への周知がないまま決まってしまうことに、民主主義の観点から問題はないのだろうか。


今、国会では森友学園・加計学園の疑惑、さらには自衛隊の日報隠し、裁量労働制や高度プロフェッショナル制度のデータ改ざんなど、多くの問題点が指摘されている。種子法廃止をめぐる問題は、本来、国民が自分たちの問題として議論すべき事柄について、十分な情報を与えられ、真剣に議論をするという政治文化が、未だ根づいていないという日本の民主主義が抱える問題と深く関係している。


現在、世界では、人類が安定的に食料を供給し、かつ自然との調和を求める農業に向かっていくことが求められており、大規模農業から小規模農業への動きに加え、環境に配慮した有機農法やアグロエコロジーの取り組みが広がっている。種子法の廃止はこの動きに逆行するものである。主権者として食について考えるとともに、食の安全を守るということが議論されるような社会を目指していかなければならない。


(本アピールは、本日のシンポジウムの報告を担当した信州大学の学生サークルP△Sが起案し、シンポジウム会場で出席者の承認を受けたものです。)


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